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99年12月18日 日本テレビ「報道特捜プロジェクト」


 次は今年9月に放送し、大きな反響のあった児童養護施設の児童虐待問題です。
千葉県にある施設での虐待をスクープしまして、放送後にも関係者の方からも多くの内部告発が寄せられました。届きましたファックスの総数なんですけれども、400通を越えています。

養護施設の児童虐待のその後を追いました。

今年9月、報道特捜プロジェクトは、千葉県船橋市にある児童養護施設恩寵園で、児童虐待が行われていた事実を報道した。60人の子どもたちが、本来守られるべき施設で、度重なる虐待を受けていたという。施設の卒園生が告発した。

(女の子)
「とりあえず、血が出るまでやる。年上の人たち(園児)がー、鎌とかで頭を殴られているのを見たことがあるしー、(園長は)その子を木の机の上に、寝っころがせて、なんか包丁?で、足を切り始めたりした子も見たしー、中にー入れられちゃった子もいるしー、乾燥機の中に、回されちゃった子もいるしー、頭からグルングルン回ってました」

 そして、三年前、日常的な虐待に耐えかねた13人の子どもたちは、施設を脱走するという事件が起きた。
 その後、施設に連れ戻された子どもたちは、千葉県の知事宛に、園長による虐待の事実を手紙で訴えた。手紙を書いていることが、いつ園長に見つかるかもしれない恐怖に怯えながらも、必死の叫びだった。

 しかし、子どもたちの声は、聞き入れられなかった。結局当時、子どもたちに暴力を振るっていた園長は、解任されることもなく、今もなお、恩寵園の園長に納まっているのである。千葉県は、なぜ園長を辞めさせないのか? 
 我々は、今年9月、県に取材を申し込んだが、取材拒否。そこで担当者を直撃した。


「来た。日本テレビですけれど、体罰の張本人の園長がそのまま、あの施設を続けていいというのが、千葉県の見解なんですね」

(千葉県監査指導室 八木安夫室長)
「取材はお断りします」

(日本テレビレポーター)
「お話して、いただきたいんですよ」


 こうした千葉県の対応に、番組を見た視聴者や関係者から、400通を越えるファックスが届いた。
「私は当時恩寵園で働いていた元保母です。園長は本当にひどく、子どもをいじめて、それを楽しんでいる」
 児童養護施設を所管する厚生省は、この事態をどう見ているのか聞いた。

(厚生省児童家庭局 森望専門官)
「あのー、前回みなさんの、この番組を我々は大変衝撃を受けました。とにかく事実をきちんと確認するように、あの番組が土曜日でしたから、火曜日に県の課長さんに来て頂いて、事実確認を直ちにして頂きたいということをお願いしてあります」


 当時恩寵園で暮らしていた子どもは60名。そのうち35名がすでに退園している。その28名が、もともと問題のあった親元に帰されている。

 その子たちは、その後どうしているのだろう。
子どもたちが引き取られた親元の住所を頼りに、我々は今回、彼らの行方を追った。探し当てるのは容易なことではなかった。

「入居してません。もう引っ越しったんですね。」

手を尽くして訪ね歩き、ようやく、一人の少年に会うことが出来た。
少年は現在17才、恩寵園での事件後、真っ先に親元に引き取られた。

(佐藤俊男くん 仮名・17歳)
「園ではー、その反抗というのは出来なかったからー、戻って来ちゃって、自分の意見が通るようになっちゃって、わがままになったというか。やっぱり自分のせいでもあるし、園のせいでもあるし」

 少年は6年ぶりに親と暮らすようになったものの、うまく自分をコントロールすることが出来ず、引き取られてすぐ、少年院に入った。今もなお、少年の脳裏に、恩寵園での忌まわしい体罰の思いでがよみがえって来るという。
 その一つは、24時間の正座。トイレに立つことも、寝ることも許されず、園長は容赦なく座り続けさせたという。

「トイレ行きたくなるじゃないですか、やっぱり。寝れなかったしー。正座してるじゃないですか、その下に新聞を敷かれて、『その上でしろ』みたいな感じで言われて。自分は我慢したんですよ、ずっと。もう一人の友だちっていうか、もう一人の子は、そこでしちゃったんですよ。可哀想だなって思いましたよ」

 さらに、もっとも強烈に残る体罰。それは園長からズボンを下ろされ、性器にハサミをあてられたことだという。

「それをやられたのは3人いて、オレー、痛かったのがあって、もう一人が失神して、もう一人が血ー出しちゃった感じで」

「血出た?」

「はい、出ました。バリバリ。だからー、常識で考えると想像がつかないことをやられていたからー、中3になる前から、早く出たいから就職するとか、みんな言っちゃってるんですよ。高校に行きたい人たちは、たぶん、たくさんいたと思うし。たぶんオレがいたときに高校に行ったのは、ホント、男ではたぶんいないと思うんですね。みんな就職だと思うから」

 園を出てから、なかなか定職に就けなかった少年も、やっと建設関係の仕事に就くことが出来たという。

 少年は、同じく施設を出た少女の居所を教えてくれた。当時、少女の親は病気で、彼女を引き取るような状態ではなかったにもかかわらず、県の担当者により、少女は家に帰された。
しかし、彼女は家には帰らず、今、友人宅に居候しながら、夜、仕事に出かけている。

(小川かおりさん 仮名・17歳)
「私みたいに家に帰っていない子もいるしー、あと、風俗とかいっちゃってる子もいるしー。んー、とりあえず友だちと一緒に部屋を借りて、ちゃんとした仕事にいきたいなーと思っている」

 本当は高校に行きたいと思っても、恩寵園を早く出たいため、あきらめる子が多いという。

 さらに、今年二十歳になった園出身の女性と出会った。彼女は親が行方不明のため、里親の元に引き取られた。しかし結局、里親ともうまくゆかず、今、家を出て、新聞配達をしながら大学に通っている。園の年長者でもあった彼女は、事件当時、子どもたちの悲惨さを訴えるために、県に足を運んだという。そのとき、県の担当者は・・・。

(松下真理さん 仮名・20歳)
「一見、ニコニコして優しそうな顔をして聞いてはくれているものの、ある意味同情するだけで終わり。ただ結局、『私たちじゃ何もできない。私たちじゃ、なんにも出来ない』と言うんです。『やめさせることは出来ない』というふうに言われたので。何してもダメなのかなと思った」

 当時つけていた彼女の日記から、子どもたちを救おうとしない千葉県への苛立ちが伺える。

「やってらんねえよお」「この先どうなることやら」「死んだ方がマシだ」

「あのときに、少しでも園長が代わったりとか、そういうふうになっていれば、絶対施設とか代わらずにすんだし、家に帰る子だって少なかっただろうし、教護院なんか、たぶん、まして入らなかったと思う」

 突然、彼女は引き出しから財布を手に取った。そして、財布の中から取りだしたものは・・・、それは、当時の子どもたちが、園から脱走したときの記事であった。

「ある意味で、お守りですね、これは。なんか、これ見ていると、あのときが一番大変だったと思うから、だから、これを見ると、なんか、頑張れる」

 園を出てから、たった一人孤独と闘いながら、必死に生きてきた彼女。しかし、孤独に耐えながら暮らしているのは、彼女だけではなく、園を出た多くの子どもたちが、この都会の中で彷徨っているのだという。

 さらに、一人の少女と出会った。彼女は1年半前、14年の在園中、わずか3回しか面会に来なかったという父親の元へ返された。しかも父親は、少女を養うだけの生活力はなかった。

(山本恵子さん 仮名・18歳)
「いきなり、朝起きて、ご飯食べて、自分の部屋に戻ったら、保母さんに呼ばれて、園長室に連れて行かれて、『おまえは措置解除するということになったから、今から30分以内に、荷物をまとめて出ろ』って言われた。いつでも外に出したいんだろうなって思ってたけど。その前に、措置解除される前に、保母さんと『頑張ろうね』って言ってた次の日だったから、すごいビックリして。パニクった。次の日、ま、今住んでる家に連れてこられたんだけど、ホント、ガラクタ。人が住むような状態じゃなくて」

 少女が父親に連れて行かれた家は、14年間誰も住んでいなかった廃屋だった。

「気付いたら、オヤジがお金を置いて、いなくなっていてて。結局また、一人ぼっちになっちゃったわけで」

 父親は、引き取った翌日に、少女が部屋を片づけている隙に行方をくらましたという。置いていったお金は、たったの2万円。結局少女は、通っていた高校も学費が払えず、中退をせざるを得なかった。

(松岡ディレクター)
「ま、一人で暮らし始めてから今まで、ていうその何年間、どうだったの」

「昼の仕事とかになると、保護者の保証人とか必要といわれたりして、無理だから、毎日万引き。ん、電気も止まって、ロウソク、そこら辺の店からかっぱらってきて、10本こんなに並べたりして過ごしたりもしたし。けっこう、落ちるところまで落ちちゃうと、けっこう無敵だよね」

 恩寵園で受け続けていた虐待の日々。16歳でたった一人社会に放り出された少女。それから1年半、過酷な日々が続いた。

「園長は続けてるでしょ」

「ウン」

「そのことに対してはどう思う」

「許せないね。図々しいみたいな。過去は過去って言うヤツもいるけど、過去にしちゃいけないほど、ひどい、何て言うんだろ、想像よりはるかに卑劣な虐待をされてきたわけだから、絶対心の中に、絶対残るし。ウン。もっと愛情とかあげていれば、ここまで心も、すごい貧しくなんなかったと思うし。でも、なんだかんだ言って、かなり残酷な日々を送ってきたけど、ここまで生きてこれたし、もう何て言うの、すごい楽しいこともあったから、この状況は状況で、自分でよくしていかなくちゃいけないから、頑張って生きていくしかないんだよね」

 子どもたちは、元々親に問題があり、園に預けられている。この3年間、園を出た子どもたち35名のうち、実に28名までもが、その問題のあった親元に返されているのである。子どもたちの引き取り先を決める権限を持つ、千葉県の対応は、果たして正しい選択だったのか。

(恩寵園の子供たちを支える会 浦島佐登志代表)
「親元に返すというのは、やっぱり一番問題のある選択だったろうと思います。子供は、もともと親に捨てられたという意識をすごく持っているわけです。僕が関わった何人かの子供、親元に行ってうまくいっている子は一人もいないわけですよ」

 千葉県は、なぜ問題の多い親元に子供を引き取らせるのか。
その答えを求めるべく、我々は千葉県へ乗り込んだ。

(CM)

 虐待が日常的に行われていた、恩寵園を出た35名の子供たちのほとんどが、子どもを養う状態にない親元へ返されたという。引き取り先を決める権限を持つ千葉県は、なぜそうした措置をとったのか、県に聞いた。

(千葉県児童家庭課 志村光雄課長)
「私どもとしては、そんなことはないと、は思いますが、もしあるんであれば、具体的な情報を頂ければ、そのような内容について、私どもも確認して、もし、確認してですね、そのような話があるかとか、その辺を具体的に、ちょっと教えて頂ければというふうに思います」

「教えることは、やぶさかじゃないんですが、私たちが驚くのは、私たちが知り得た情報を県に教えるんではなくて、私たちが調べたことは、とうに県が知ってなきゃなんないことなんですよ。誰が責任者なんですか。県じゃないんですか」

「はい」

「これは、誰が見たって、そこら辺調べたら、すぐ判ることじゃないかってことが、平気でまかり通ってですね、その親元に子どもが返されて、案の定、放置されたりですね、そういうふうなことになってしまうんですよ。10代の子どもですよ」

「・・・」(返事をせずうなずくのみ)


 親元に問題はなかったという千葉県。
そうした中、我々は園の現状を訴える証言を得た。

「たまに竹刀とか、棒とか持ってきて、ぶたれたりとか、投げ飛ばされたりとかしたり、つらい、つらい。こんな、出たいって言っている」

 恩寵園に虐待はないと千葉県は言い切っている。この告発は、今なお、園内で虐待が行われ続けていると証言している。虐待を受け続け、園を出た子供たちを救うことすら出来ず、また、今なお虐待を受け続けている、園の子供たちの現実をも知ろうともしない千葉県。
いったい、いつになれば子供たちは救われるのか?


「子供たちは前向きですよね。それに引き替え、千葉県は、ホントに改善する気があるのか」

「そうですね。子供たちは、明るく変わっていこうというのに、千葉県のほうが、まったく変化がないというのが・・・」

「取材をした、松岡ディレクターです。千葉県の対応の冷たさが、子供たちを二重に三重に苦しめているのではないかと思うんですが」

「そうですね。千葉県の対応は、ボクたちも取材してみて、本当に呆れるばかりだったんですけれど、いくつか、間違いを犯していると思うんですね。まず第一に、3年前にあれほどひどい虐待が発覚した。それに対して、園長を辞めさせることが出来なかった。今でも続けさせている。この事態は、子供たちにとって、自分たちの思いが通じなかったんじゃないかと、すごく心に傷として残っているわけで、あれは、第一の失敗だったと思いますよね。また、卒園した後の子供たちの現状っていうのを接してみると、先ほど明るいとおっしゃいましたけど、実際には、その裏で大きな孤独って、抱えていると思うんです。やはり、親元に返せる状態で返したのか、どうなのかということを、千葉県は調べていないと思うんですね。そこが一番の大きな問題だと思います。それと、前回の放送の後に、厚生省のほうから千葉県に事実の調査をしろというような指導が入ったわけですけれど、実際には、9月から10月、11月、そして11月の末になって、やっと少し動き出した、というくらいの、腰の重さなんですよね。これでは、もう呆れるばかりです」

「その期間、何をやっていたのかということになりますものね」

「すべきことをしない行政の罪、というのは薬害エイズの問題などでは、問われたわけですが、この場合、担当者の責任というのはどうなんですか?」

「担当者は、例えば本当に暴行傷害が行われているのを、そのまま見過ごしているということになると、民事的に責任がある可能性はあるけど、刑事的に、幇助かというと、これは難しいなるでしょうね。法的責任が、どこまであるか、つまり、子供たちを救わなければならない法的責任が、県の担当者にあるのかどうか。そこのところは、刑事的にはかなり難しいと思いますよ」

「しかし、今すぐ解決しなければならない問題ですね」

「この前、9月の時にも、私に申し上げたと思うけど、結局、警察権力が動く以外にないんですよ。こういった、犯罪行為が行われている疑いが、非常に強いわけですね。それは、一方的に、子どもが誇張してしゃべっているかもしれないけど、ともかく、そういった事実があると訴えられている以上、それを調べる権限を警察は持っているわけですから、やはり警察が入って、実際に暴行が日常的に行われているか、どうか、これを調べれぱ、事件になれば、恩寵園の園長は、いつまでも続けられる筈はないですからね。
 第三者機関を作って、第三者機関が県に対して、きちっと調査をして、県に対して注文をつけるいった制度が必要だろうと思います」

「千葉県の今後の対応を見守りたいと思います」


(読者からのファックス)
「養護施設の問題について。私の通学していた中学は、恩寵園の学区だったので、クラスメイトにも何人かいました。友だちは仲が良く、園長が機嫌が悪いと、何もしなくても平手打ちをされたり、小さな子がおねしょをしただけでも、すごく折檻されましたというのを覚えています。許せません」

「養護施設に入所するには、児童相談所から施設に入所すると聞いています。いろいろな事情で、施設で生活する子供たちがそこで虐待を受けていたとすれば、許せないことだと思います。指導相談所は、調べないで事務的に預けてしまうのでしょうか。施設には、子ども一人に何万円ものお金が出ているということです。千葉県は、そういうことも承知しているのでしょうか。警察、福祉で調べて下さい」 これも、近所にお住まいの方からです。

 次回は、2000年1月22日(土) 午後1時からの放送です。