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判 決 文
カウンタ
from 2000/1/29



判  決


原 告 山田由起子 浦島佐登志 (エドワード注:恩寵園の子供たちを支える会)

被 告 沼田 武 (エドワード注:千葉県知事)

主 文
一 原告らの請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第一 請求
 被告は、千葉県に対し、五九二万〇五三〇円及びこれに対する平成九年七月一日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

第二 事案の概要
 本件は、千葉県(以下「県」という。)が、平成八年七月から平成九年六月までの間に、船橋市薬園台四丁目所在の児童養護施設恩寵園(以下「恩寵園」という。)を設置する社会福祉法人恩寵園(以下「法人恩寵園」という。)に対し、児童福祉法(以下「法」という。)五〇条七号に定める費用(県が児童を児童福祉施設に入所させる措置を採った場合における入所に要する費用及び入所後の保護につき、施設の設備及び運営について最低基準を維持するための費用。以下「措置費」という。)を支弁したことに関し、県の住民である原告らが、被告は県の知事(以下「知事」という。
)として、恩寵園の園児に体罰及び肉体的・精神的虐待(以下「体罰等」という。)を加えている園長大浜浩(以下「園長」という。)を解職するよう法人恩寵園に対して改善命令を発すべき義務があったにもかかわらず、右義務を怠り、措置費の内の園長の人件費に相当する額を減額せずに支弁したことは違法な公金の支出にあたるとして、被告に対し、右期間に法人恩寵園に支弁した園長の人件費に相当する額を損害金として県に支払うことを求めた事案である。

一 前提となる事実(争いのない事実及び掲記の証拠によって認められる事実)

1 当事者
(一)原告らは、県の住民である。
(二)被告は、平成八年七月ないし平成九年六月当時、知事であった。

2 恩寵園
(一)法人恩寵園は、昭和二七年に設立された社会福祉法人で、知事の認可を得て恩寵園を設置した。
(二)恩寵園は児童福祉施設の一つで、乳児を除いて、保護者のない児童、虐待されている児童、その他環境上養護を要する児童を入所させて、これを養護し、あわせてその自立を支援することを目的とする児童養護施設である。
(三)園長は、児童福祉施設の長として、法四七条において「入所中の児童で親権を行う者又は後見人のないものに対し、親権を行う者又は後見人があるに至るまでの間、親権を行う」(一項)、「入所中の児童で親権を行う者又は後見人のあるものについても、監護、教育及び懲戒に関し、その児童の福祉のため必要な措置をとることができる」(二項)という権限を有している。

3 知事の権限
(一)社会福祉事業法上の権限
 知事は、同法五四条に基づき、「法令、法令に基づいてする・・処分及び定款が遵守されているかどうかを確かめるため必要があると認めるときは、社会福祉法人からその業務又は会計の状況に関し、報告を微し、又は当該職員に、社会福祉法人の業務及び財産の状況を検査させることができる」(一項)、「社会福祉法人が、法令、法令に基づいてする・・処分若しくは定款に違反し、又はその運営が著しく適性を欠くと認めるときは、当該社会福祉法人に対し、期限を定めて、必要な措置を採るべき旨を命ずることができる」(二項)、「社会福祉法人が前項の命令に従わないときは、当該社会福祉法人に対し、期間を定めて業務の全部若しくは一部の停止を命じ、又は役員の解職を勧告することができる」(三項)、「社会福祉法人が、法令、法令に基づいてする行政庁の処分若しくは定款に違反した場合であって他の方法により監督の目的を達することができないとき、又は正当の事由がないのに一年以上にわたってその目的とする事業を行わないときは、解散を命じることができる」(四項)という権限を有している。

(二)法(児童福祉法)上の権限
 法四五条一項は「厚生大臣は、・・児童福祉施設の設備及び運営・・について、最低基準を定めなければならない」と規定し、右規定を受けて、昭和二三年一二月二九日厚生省令第六三号をもって「児童福祉施設最低基準」(以下「最低基準」という。)が定められ、児童福祉施設の運営についての最低基準として、二条は「最低基準は、児童福祉施設に入所している者が、・・素養があり、かつ、適切な訓練を受けた職員(児童福祉施設の長を含む)の指導により、心身ともに健やかにして、社会に適応するように育成されることを保障するものである」と、四四条一項は「児童福祉施設における生活指導は、園児の自主性を尊重し、基本的生活習慣を確立するとともに豊かな人間性及び社会性を養い、児童の自立を支援することを目的として行わなければならない」と規定している。
 そして、最低基準を受けて、知事は、「最低基準を維持するため、児童福祉施設の長・・に対して、必要な報告を求め、児童の福祉に関する事務に従事する職員に、関係者に対して質問させ、若しくはその施設に立ち入り、設備、帳簿書類その他の物件を検査をさせることができる」(法四六条一項)、「児童福祉施設の設備又は運営が最低基準に達しないときは、その施設の設置者に対し、必要な改善を勧告し、又はその施設の設置者がその勧告に従わず、かつ、児童福祉に有害であると認められるときは、必要な改善を命ずることができる」(同条三項)、「児童福祉施設の設備又は運営が・・最低基準に達せず、かつ、児童福祉に著しく有害であると認められるときは、児童福祉審議会・・の意見を聴き、その施設の設置者に対し、その事業の停止を命ずることができる」(同条四項)という権限を有し、また、「第三五条第四項の規定により設置した児童福祉施設が、この法律若しくはこの法律に基づいて発する命令又はこれらに基づいてなす処分に違反したときは、・・同項の認可を取り消すことができる」(法五八条)という権限を有している。

4 措置費の支弁
(一)
県は、法二七条一項三号に基づいて、児童を恩寵園に入所させる措置を採るとともに、措置費を恩寵園に対して支弁している。
(二)
措置費は、児童福祉施設を運営するために必要な職員の人件費その他事務の執行に伴う諸経費である「事務費」と、事務費以外の経費であって、施設に入所している措置児童に直接必要な諸経費である「事業費」から成り立っている。
 措置費の額については、国が定める「児童福祉法による入所施設措置費国庫負担金の交付基準について」(昭和四八年四月二六日付け厚生省発児第八四号厚生事務次官通知、以下「次官通知」という)に基づき知事が算定するものとされ、同通知によれば、措置費の内の事務費については、その施設の「月額保護単価」にその施設の定員を乗じて得た額を基本として支弁するものとされており、事務費の算出根拠となる「月額保護単価」については、原則として職種別職員定数表等に基づいて算定され、個々の施設ごとにその所在する地域、定員等により定まる「一般保護単価」を知事がそのまま設定するものとされている。(乙三の1ないし4)
(三)
県から支弁される措置費は、一年を四半期に分け、第1四半期を四月から六月まで、第2四半期を七月から九月まで、第3四半期を一〇月から一二月まで、第4四半期を一月から三月までとし、第1四半期分の措置費を概算として四月に支弁し、一二月に精算し、第2四半期については9月に概算を支弁し、翌年の二月に精算し、第3四半期については九月に概算を支弁し、翌年の三月に精算し、第4四半期については二月に支弁し、翌年の五月に精算する扱いになっている(被告の平成一〇年四月一六日付け準備書面別紙A)。
(四)
平成八年度(平成八年四月一日から平成九年三月三一日まで)に、県から法人恩寵園に支弁された措置費は、一億四三二六万八五〇八円(事務費一億一二三四万五〇八八円、事業費三〇九二万三四二〇円)(被告の平成一〇年四月一六日付け準備書面別紙B)で、平成八年七月から平成九年六月の間に現実に支弁された額は、左記のとおり一億一六四七万八二〇三円である。(被告の平成一〇年四月一六日付け準備書面別紙A)

    記

平成八年 七月 八日    七万二〇〇〇円 医療費(眼鏡代)
     九月一七日 三一四二万六八八四円 平成八年第3四半期概算
    一二月一三日 三〇五二万九九六二円 平成八年第4四半期概算
    一二月二七日  二二六万三七五六円 平成八年第1四半期精算
平成九年 二月二五日   三三万〇二五七円 平成八年第2四半期精算
     三月一〇日      △八四二円 平成八年第3四半期精算
     三月二五日   六一万二七四五円 単価改定差額
     四月一五日 二五七二万八〇一二円 平成九年第1四半期概算
     五月一五日   二七万二三八二円 平成八年第4四半期精算
     六月一三日 二五二四万三〇四七円 平成九年第2四半期概算

5 園長による体罰及び県による指導等
(一)
 平成七年八月二三日、市川児童相談所に園長の体罰を訴える匿名の電話があったため、同年九月一日に千葉児童相談所長協議会(以下「協議会」という。)の臨時の所長会議が開催され、事実関係の調査及び今後山対策を検討することが決定された。
(二)
 児童相談所の職員は、同年九月四日に園長から事情聴取を行い、また、同月叫一日に恩寵園の職員(以下「職員」という。)と小学校五年生以上の園児との面接調査を行って、恩寵園において体罰等が行われていたことを確認した。(甲二二、弁論の全趣旨)」
(三)
 協議会は、園長、職員及び園児から聴き取り調査を行い、その結果を同年一〇月二日の所長会議で報告するとともに、同月四日に県児童家庭課長に報告し、同月一二日に園長等に結果内容が伝えられ、同日付けで報告書(以下「本件報告書」という。
)が作成された。
 右報告書の中で、協議会は、恩寵園で体罰等が行われていたと判断したうえで、園長及び職員が、口のききかた等児童の行動一つ一つに細かく口を出すといった園児の自主性を抑えて管理しようとする姿勢、職員の児童たちの「後ろ向きな気持ち」を否定し、ひたすら「前向きな気持ち」を持つように叱咤激励する姿勢、きちんとした枠組みのある生活を通して自立を援助する為の手段として体罰も必要であるとの思い、園長らの若い職員は何もできないとの思い等が体罰の根底にあると考えられるとし、今後の対策として、@体罰肯定の姿勢について是正する必要がある、A日常の処遇にまで園長が関わるなど、直接処遇職員、副主任、主任及び園長の役割が錯綜しているように見受けられるので、指導体制、児童指導観等の改善が必要であると提言した。(甲二)
(四)
右報告を受けて、児童相談所の職員を含む県職員(以下「県職員」という。)は、平成七年一一月二七日から平成八年三月二六日までの間、法人恩寵園、園長及び職員に対し、別紙一の「年月日」欄記載の年月日に、「事項」欄及び「内容」欄記載のとおりの指導等を行った(但し、別紙二において、右各欄の記載中、×印が付された部分は除く)。
 なお、県は、同年一二月から、恩寵園への児童の新規入所措置を停止した。
(五)
 平成八年四月三日から五日にかけて、園児一三名が恩寵園を逃げ出し、県内の四か所(市川、柏、銚子、千葉)の児童相談所に駆け込み、園長による体罰等について訴えた。(甲八、二二、弁論の全趣旨)」
 また、園児らは、同月一二日に、千葉県弁護土会と千葉地方法務局人権擁護委員会に対して、人権救済の申立てをした。
 右各児童相談所保護された園児らは、同年四月一一日から二三日までの間に帰園した。
(六)
県職員は、平成八年四月三日以降、法人恩寵園、園長及び職員に対し、別紙一の「年月日」欄記載の年月日に、「事項」欄及び「内容」欄記載のとおりの指導等を行った(但し、別紙二において、右各欄の記載中、×印が付された部分は除く)。
(七)
園長は、平成八年四月一一日付けで、@体罰はしない、A指導については第一義的には職員にまかせる、解決できないものについては相談にのる、B職員との共通理解を深めるために、積極的に話し合いの場を設ける、C子供の自主性を育てるために、自治会活動を行うといった内容を記載した「職員と子どもたちへ次のことを約束します」と題する書面を提出し、以後、園児に対する直接指導は行わないようになった。(甲一九、二二、成田)
(八)
平成八年五月一日、九人の園児が被告に宛てて、恩寵園で体罰等が行われていたこと、園長を辞めさせてほしいといったことを書いた手紙を出した(甲五の1ないし9)
(九)
平成八年八月二四日、法人恩寵園は、理事長の交代(それまでは園長が理事長を兼ねていた)と園長の減給三か月(基本給の五割)を決議した。
(一〇)
平成八年八月二八日、恩寵園の職員と小学五年生以上の園児を対象に、園児の処遇に対する満足度等の調査が行われ、体罰等が行われなくなったことが確認された。
(一一)
平成九年三月二五日、二名を除く恩寵園の職員全員が退職した。(甲二二)
(一二)
県は、平成九年一〇月一三日、新規児童の措置を再開した。

6 監査請求
 原告らは、平成九年七月七日、平成八年七月から平成九年六月までの間に法人恩寵園に支弁した措置費のうち、園長の人件費に相当する部分の支弁が違法な公金支出にあたるとして、違法な支出によって県が被った損害を賠償するよう勧告することを求め、千葉県監査委員に対し、地方自治法二四二条二項に基づく監査請求を行ったところ、同年九月三日付けで、同監査委員は原告らに対し、右監査請求を棄却する旨の通知を発し、同通知は同月四日、原告らに到達した。

二 争点
1 平成七年八月二三日以前における園長による園児に対する体罰等の存否(以下「争点1」という。)

 (一)原告らの主張
 園長によって行われた体罰等は次のとおりである。
@園児の態度が悪いと、ライターを点火したまま園児の腕に近づけて恐怖を与え、職員が制止しても笑いながら続け、さらにその子が足のひっかき傷を押さえていたティッシュに火をつけた。
A性器を触っていた男児に、「そんなことをするオチンチンならばいらない」とズボンを脱がせ、性器にはさみを当て、恐怖のために男児を失神させた。
Bいたずらをした園児に、「そんなことをする手はいらない」とはさみを動かしながら脅し、実際に園児の手を切って出血させた。
C小学生の園児が、恩寵園で飼っていた鶏を遊具の高い所に持って上がった際、鶏が暴れて墜ちて死んでしまったところ、鶏が可哀想だから死骸を抱えて寝ろと命じ、この園児はタオルに包んだ死骸を枕元において寝させられた。
D園児の服の着方が悪いと、服の袖などを刃物で切った。
E園児の顔面を殴りつけ、大量の鼻血を出させた。
Fポルノ雑誌を持っていた園児の手足を椅子に縛り付け、雑誌を開いている格好をさせてポラロイドカメラで写した。
G朝鮮人の児童が入所し、朝鮮人であることを隠して日本名で生活していたにもかかわらず、「お前は朝鮮だ」となじり、その子が泣くと「朝鮮人の泣き方だ」と揶揄した。
H罰として園児の頭髪の一部のみをバリカンで刈って見せしめにした。
I罰として園児に二四時間眠らせないで正座をさせたうえ、食事もさせず、トイレにも行かせず、園児がトイレに行きたいと言ってもこれを許さず、園児に対し、他の園児の前で排尿せざるを得なくした。

(二)被告の主張
原告らの主張する個々の事実についてはともかく、園長に体罰等行き過ぎた指導があったことは認める。
2 県の法人恩寵園、園長及び職員に対する指導とその効果(以下「争点2」という。)

(一)被告の主張
(1)
 県職員は、別紙一のとおり、法人恩寵園及び園長に対し、指導を行った。
(2)
本件報告書には原告らが主張するような「園長の管理主義的教育観とそれを実現する手段としての体罰肯定思想がある」との表現はなく、また、「これ(管理主義的教育観と体罰肯定思想)を園長の信念である」とも書かれていない。園長が園児に体罰等を与えていたことは事実であるとしても、園長は、体罰はあってはならないという県職員の指導に素直に服しているので、被告としては体罰に肯定的な姿勢であったとまでは判断していない。
(3)
園児及び子供自治会からの被告への手紙でも、園長への嫌悪感は述べられているが、体罰等が続いているとは言っていない。○○証人の証言からも分かるように、一連の措置により体罰問題はそれなりに解決した。全ての園児の園長に対する嫌悪感、不信感を払拭するには至らなかったことは否定できないが、被告の採った措置によって問題は一応解決されたといえる。
(4)
 恩寵園は、民間の施設であり、そのような施設の人事に被告が強制力をもって介入することは民間施設の自主性を制約することになり、その意味で強制的な改善命令は他の措置によっては効果の期待できないときに行使されるべきものである。
 被告は、右(1)のとおり、法人恩寵園及び恩寵園に対し、児童相談所職員による面接調査、訪問指導、県児童家庭課長による園長の指導、カンファレンスチームの訪問指導、指導監査の実施、職員研修の実施等を行った結果、従来園長が兼ねてきた理事長の交代、園長の減給、処遇・労務担当理事の新設、副園長の新設、生活規則の緩和等が行われ、平成九年一二月の時点においては、体罰が行われなくなっており、新規入所措置を再開できるようになったという効果を上げているのであるから、これらの措置で十分であったのであり、むしろ、改善命令という強制的な措置はなすべきではなかったといわざるを得ない。

(二)原告らの主張
(1)
 県職員の行った指導に対する認否は別紙二のとおりである(なお、○は「認める」、×は「否認または争う」、△は「知らない」という意味である。)。
(2)体罰報告の無視
 平成七年八月二三日以前にも、恩寵園で実習した女性が、体罰があまりにひどいので児童相談所に報告したが何の対策もとられなかった。
(3)匿名電話後の措置について
 本件報告書は、恩寵園で体罰等が行われていると断定するとともに、その根底に園長の管理主義的教育観とそれを実現する手段としての体罰肯定思想があることを指摘し、これを園長の信念であると報告しているのであるから、被告としては、右に指摘された課題に誠実に取り組み、早急に是正措置をやり遂げるべきであった。
 しかるに、県は直ちに恩寵園への児童の新規入所措置を停止するとともに、県職員による園長に対する口頭指導、七回に及ぶ職員とのケースカンファレンスを行ったが、園長に対する指導の内容は、「体罰を行わないこと、顛末書を提出すること、今後の方策を検討するよう指導した」というもので、体罰肯定の姿勢を是正することができる内容ではなく、主要な措置として行った職員とのケースカンファレンスも、職員と園長との対立にあるといった問題にすり替えたもので、園長の体罰肯定の姿勢こそが問題の本質であることを把握していなかった。
 園長の管理主義的教育観と体罰肯定思想は園長の信念であったのであるから、右口頭指導では十分とはいえず、右指導によって刃物沙汰や出血するような体罰を控えさせることはできたものの、園長の反省を導くには至らず、その後も園長は次のような虐待行為を行った。

@平成八年二月、千葉県児童福祉施設協議会のマラソン大会に園児が参加する際、園長は園児の一人に小さな痣があるのを見つけ、「県や児童相談所の職員に痣を見られたら、何を言われるか分からない」と、その園児を参加させないと言いだし、職員が参加させるように頼むと、その園児を参加させないか、園全体の参加を取りやめるかどちらかだと、無茶な選択を迫った。
A平成八年四月二日、園児が屋上にあがったと怒り、その園児が使ったはしごを外し、雨の降る寒い日であったにもかかわらず、二時間もの間、子供が屋上から降りられないようにしたまま、屋上で正座させた。

 これらの体罰等の結果、平成八年四月の園児たちの集団逃走事件が発生したのである。
(4)逃走事件から平成八年夏まで
 平成八年四月三日から五日にかけて園児が恩寵園を逃げ出したのは、園長の虐待を訴えて園長を辞めさせてもらうためであった。
 それまで行ってきた園長に対する指導が功を奏さなかったのであるから、園長に対するより強力な指導が必要であったが、被告は園長に対して指導することさえしなかった。
 被告は、問題を園長と職員との対立であると間違った捉え方をし、指導監査や職員とのケースカンファレンスを行っていたが、問題の本質である園長の休罰肯定の姿勢を変えようとはせず、園児たちの(ーー;) ウ案に応えようとはしていなかった。
 平成八年五月一日に、園児が知事である被告に宛てて手紙を書いたのは、園長を辞めさせるよう訴えるためであった。被告は、返事を書いたものの、形式的な回答にとどまり新たな対策を講じなかった。
(5)平成八年夏から平成九年三月の職員退職まで
 平成八年八月二八日に、県職員は「職員と小学校五年生以上の児童の現況調査」を実施し、「体罰はなかった」ことを確認しているが、この時期には園長は直接処遇からはずれており、「体罰はなかった」のもそのためである。
 平成八年の夏休みの時期から男子園児が荒れ始め、若い保母が多数を占めている職員の言うことを聞かなくなったが、これは体罰等が一旦なくなって園長の管理体制が緩んだことが原因であって、体罰等をやめた場合にほとんど必然的に発生する問題である。
 職員である保母らは、経験の浅い者ばかりで、体罰等を受けた園児の心理を読みとり、反抗や逸脱行動に対して的確に対応できる専門的力量が足りなかったのであるから、外部から指導力のあるベテラン養護職員を投入するなどの措置が必要であった。そこで、職員の組合は法人恩寵園の理事会に対してこれらを要求したが、理事会は職員の組合からの要求に対応することはなく、一〇月からは園長の直接処遇を復活させ、その結果同月のうちに園長による園児への殴打事件が再発した。
 また、平成八年一〇月二八日、全国の法律家らは、県に対し意見書を提出し、指導力向上のための人事を含む強力な指導、改善勧告を求めたが、県は問題を職員全体の問題にすり替え、職員とのケースカンファレンスを継続するとともに、理事会の措置を容認し、園長の体罰肯定の姿勢が是正されないまま、園長のリーダシップを肯定した。
 これらの措置が職員らの援助にならないことは明らかで、荒れた園児たちは児童相談所に、一時保護された後に、教護院入所を含む措置変更によって恩寵園から排除されていった。職員らは、挫折感と園長の発言力が増したことによる雰囲気悪化のために退職を希望するようになり、平成九年三月下旬には二名を除く全ての職員が退職することとなった。
(6)平成九年三月下旬から現在まで
 園長を批判する職員がいなくなったことによって、園児に対する園長の体罰、虐待が多発するようになり、次のような体罰等が行われた。

@高校生の園児が幼児の部屋で幼児の面倒を見ていたところ、園長が部屋に入ってきてお尻をけ飛ばし、部屋から出ていくように言った。
A園児が恩寵園の電話を使用したら、園長がその園児の頭をたたいた。
B園長が園児に対し、電話代を園児が払うように言いつけた。
C園児が朝食を食べずに昼食を食べに行ったところ、園長が園児に食べるなと言い、それでも食べようとした園児を突き飛ばした。
D保母の一人が、小学一年生の女子の園児の尻を三〇発くらいたたいた。
E女子高生の園児のところへ男子の友人が来た際、主任保母がその園児に対し男子を連れ込むなと言って頭を床に押さえつけるようにした。
F男女のグループの友人らが恩寵園に来た際、園長がその友人らに対し帰るように言い、園児が送ろうとすると、園長が園児に対し外へ出たら高校を辞めさせると言った。
 県は、平成九年五月一日に法律家グループに対し、園長の体罰に対して調査をすることを約束したが、本気になって調査をしなかった。

 また、国会で恩寵園の問題が取り上げられ、厚生省から県に対し問い合わせがきた際にも、恩寵園の問題を労使問題や、園児の資質の問題として回答した。
 その後、県は恩寵園で適切な処遇がなされていることが確認できたとの不当な評価の下に、平成一〇年一〇月一三日から新規児童の入所措置を再開した。
 しかし、一部の園児たちは園長による嫌がらせを受けており、強引な家庭引取りなどによって恩寵園から排除された。

3 被告が園長の解職を求める改善命令を発しなかったことが違法か(以下「争点3」という。)
(一)原告らの主張
(1)
 法二七条一項三号の措置は、虐待する保護者と被虐待者の分離を図る措置であって、一般家庭内における保護者による虐待の場合には保護者を家庭から排除することが困難であるか、仮に保護者を排除できても保護者のいなくなった家庭で児童が生活し続けることが困難であるため、児童を保護者から分離して措置するのであるが、本件のような児童養護施設における施設長である園長による虐待の場合には、保護者である園長を園児から分離する方が容易であり、かつ、「児童虐待等に関する児童福祉法の適切な運用について」と題する厚生省の通知(平成九年六月三〇日、児発第四三四号、厚生省児童家庭局長)で指摘される「児童の最善の処遇を最優先した処遇」に沿う処置である。
 しかも、後記似(2)指摘するとおり、被告には法四六条三項に基づき改善勧告・改善命令を発しうる強い監督権限があるのであるから、この権限に基づき虐待者である園長を排除することをもって、法二七条二項三号の措置を取るべき義務を履行することが可能であった。
(2)
 法四六条三項は、児童福祉施設の運営が最低基準に達しないときは、設置者に必要な改善を命ずることができると規定している。
 この際、恩寵園については、法二七条一項三号の措置をしなければならないような園長がいること自体からして、施設の運営が最低基準に達していないといえることは明らかである。
 そして、改善勧告には、行政がその裁量権を柔軟に発揮して個別具体的事案に必要な内容を盛り込めるように、法文上「必要」という要件以外何らの限定もなされていないのであるから、親から虐待されてきた児童を養護すべき児童福祉施設の施設長みずから入所児童を虐待し、設置者であり施設長の雇用主たる法人がこれを懲戒するのが当然であるような場合に、当該法人がその措置を講じようとしない場合には、監督者たる被告が設置者である法人に対し施設長の解職を勧告することは、改善勧告の権限に含まれるし、むしろ、法二七条一項三号の措置をすべき義務があることからすれば、勧告をする義務があるといえる。
 さらに法人がこの改善勧告に従わない場合には、二七条一項三号の措置を要するような施設長がいることが「児童福祉に有害である」ことは明らかであるから、被告は、改善命令として施設長を解職すべきことを法人に命じることができるし、法二七条一項三号との関係ではむしろ義務であるといえる。
 社会福祉事業法は、所轄庁である被告が、社会福祉法人の運営が著しく適正を欠くと認めるときは、当該法人の役員の解職を勧告する権限を認めており(社会福祉事業法五四条三項、二項)、法人がこれに従わない場合には法人の解散を命じることすらできると規定している(同条四項)。社会福祉法人は、児童福祉施設の運営母体で、社会福祉事業法により自主性を重んじられた法人であり(同法五条一項二号)、そのような法人に対し、勧告に従わない場合には法人の解散まで命じることができるとされていることからすれば、社会福祉法人によって設置されている児童福祉施設の職員すなわち被用者である園長の解職を法人に命じる改善命令を出せることは当然である。
(3)
 知事には、地方自治法一三八条の二に基づき県の財政を誠実に管理し、執行する義務があるところ、県が支弁する措置費で運営されている養護施設が、平成七年一〇月から平成八年六月まで(実際には、その後平成九年一○月に至まで二年間も)新規児童の入所措置ができない状態に置かれていたというのは財産管理上問題であり、財政管理の観点からも園長を解職し施設の状態を正常に戻すべきであった。
(4)
近年児童虐待の問題が大きな社会問題となっている中で、平成一一年五月に厚生省児童家庭局が「命にかかわる場合や心理的に子供の存在が脅かされる場面では、ためらわずに毅然と法的措置を講じていくべきだ」との方針を全国の児童相談所に徹底させた。親の虐待の場合に毅然と法的措置を講じるべき被告が、自ら親の虐待を受けてきた児童を入所させた恩寵園で、さらにこれらの児童を園長が虐待している場合に、毅然とした措置をとらないことが許されるはずはない。
 恩寵園が仮に県立であったとすれば、県の職員たる施設長が一〇年以上にわたり入所児童を虐待していたことが判明すれば、その施設長が懲戒免職となることは間違いないのであり、恩寵園の児童が憲法一四条に基づき県立施設に入所措置された児童と同等の擁護を受ける権利を有しているとからすれば、被告は法人恩寵園に対し、園長の解職を命じる義務があった。
(5)
 被告は、行政裁量を主張するが、裁量権の行使であっても、一定の実体的基準に違背している場合には、違法になるのであって、規制権限の発動・不発動の裁量に関しても、@生命身体財産に重大な損害をもたらす危険の存在とそれが切迫していること、A行政庁において具体的危険の予見可能性があり、かつその結果回避防止が非常に容易であること、B被害者にとって自分ではそれが回避できず、行政の規制に頼らざるをえない状況にあることという要件を具備する場合には、その裁量の幅が一定の場合には収縮し、その権限の不行使が作為義務違反として違法となる場合があると
解すべきである。
 本件の場合には、
 @については、園長が園児に対し前記のような体罰及び肉体的精神的虐待行為を行っていたのであるから、園長を解職させない限り、園児の生命身体に重大な損害をもたらす危険が存在し、しかも、それが切迫していたといえ、@の要件は充たしている。
 Aについては、本件報告書に「体罰肯定の姿勢について、是正する必要がある」との指摘がなされていたこと、恩寵園で実習した経験をもつ病院職員が、実習していた際の体罰の状況を児童相談所に報告していたこと、集団逃走事件で逃走した園児らは園長の体罰を訴え、人権救済申立てを行っていること、園児から被告に宛てた手紙の中で園児が園長の体罰等と園長の解職を訴えていたことからすれば、@で述べた具体的危険が継続していることも被告は十分に認識し、少なくとも認識し得たはずである。また、被告は、法四六条三項が定めるその権限に基づき、法人恩寵園に対し園長の解職を命ずることができたのであるから、結果回避防止が容易であったといえ、Aの要件も充たしている。
 Bについては、園児たちの被害を防止するためには園長をその職から退かせることが必要であったところ、園児たちはみな末成年者であって自らの権利救済のために行動する能力が十分でないことに加え、恩寵園から離れて生活することが不可能だったのであるから、園長を批判し、自分たちの要望を突きつけたり、親に代弁してもらうこともできず、園長を解職させる以外に方法がなかった。
したがって、Bの要件も充たしている。
(6)
 以上のとおり、本件においては、少なくとも平成八年六月末日の時点までには前記の各要件が備わっているから、被告の規制権限の発動・不発動の裁量権が収縮し、被告には、園長の解職を求める命令を発して危険を防止する義務が課せられていたといえる。
(二)被告の主張
(1)県職員による指導
 前述のように、県職員は法人恩寵園、園長に対し指導を行っている。
 園長自身も反省して園児に謝罪し、その後は○○証人の証言からも分かるように体罰もなくなっており、それを確認したうえで新規入所措置を再開している。
(2)法二七条一項三号
 法二七条一項三号は、児童養護施設に対して適用されることを予定していない。
(3)
 原告らは、園長が県の職員であれば懲戒免職となることは間違いないという前提に立って解職を命じる義務があったと主張するが、仮にそうであったとしても、過去の非違行為に対する制裁である懲戒処分と将来の行政目的達成のための行政処分とを単純に比較することはできない。
(4)裁量論
 法四六条三項に基づく改善勧告・改善命令を発するか否か、どのような内容の勧告または命令を発するか、あるいはその前に適当な指導をするか否かは、被告の判断に任せられており、仮に、原告らの主張する車態が事実であったとしても、当然に園長の解職を命じなければならないわけではない。むしろ、民問施設の自主性をできるだけ制約しないように、強権的な改善命令は他の措置によっては効果の期待できないときに行使されるべきである。
 本件の場合は、被告の採った措置によって体罰等をなくすという目的を達成することができたのであるから、強権的な方法を採るべきではなかった。

4 違法性の承継(園長の解職を求める改善命令を発しなかったことが、措置費を支出したことの違法性を基礎付ける事実足りうるか)(以下「争点4」という。)

(一)原告らの主張
(1)違法性の承継
 住民訴訟の対象には、財務行為そのものには会計法規・財務実体法規違反はないが、財務行為の原因ないし前提となっている非財務行為の違法が財務行為の違法をもたらしている場合も含まれるところ、右の場合には、財務行為とその前提としての非財務行為を一連の行政手続、行政行為の中で一体としてとらえ、財務行為の前提となる非財務行為にどのような違法があり、その違法性と財務行為とがどのような関係に立ち、非財務行為の違法が財務行為の違法をもたらすか、すなわち違法性の承継があるといえるか否かを検討すべきである。
 そして、違法性の承継の有無の判断は、財務行為をなす権限を有する職員が、原因となっている非財務行為がたとえ違法であっても、その適法性を前提として行動すべき法的拘束を受けるのか、それともかかる拘束を受けず自己の独自の判断に基づいて行動できるのかにかかっており、先行行為と後行の財務行為の権限機関が同一である場合には、先行行為をした機関は、右行為が違法である場合には原則として自らこれを職権で取り消すペことができるのであって、先行行為を前提とする後行の財務行為をなすべき拘束を受けるわけではないから、右機関があえて後行の財務行為を行った場合には、後行の財務行為は違法性を帯び、違法性が承継されることになる。

(2)措置費の算定根拠
 措置費のうちの事務費は、保護単価すなわち措置児童の一人当たりの月額単価にその月の定員又は対象児童数を乗じて得た額が施設に対し支弁されるが、保護単価の設定方法については、次官通知によれば、「(別表2の職種別職員定数表等に基づき、算定した額)」とされており、次官通知の細則である「児童福祉法による入所施設設置費国庫負担金交付基準等の改正点およびその右運用について」(平成八年六月二四日、児企第二二号、厚生省児童家庭局企画課長通知、以下「課長通知」という。)においては、「交付基準の事務費の保護単価に含まれる管理費及び職員の本俸等は、別紙のとおりである」として所長その他の職員の「本俸基準額表」が添付されている。このように、次官通知や課長通知によっても、事務費の保護単価を算定するには「職種別職員定数」や「本俸規準額」が要素とされていることは明らかである。

(3)措置費を減額する義務
 知事が園長の解職を命ずる改善命令を出した場合には、改善命令を実効あらしめるために、以下の理由から、措置費中の園長の人件費相当額を減額すべきである。

@児童福祉法施行令一八条は、施設が「事業の停止を命じられたとき(一号)」、「認可を取り消されたとき(二号)」、「法もしくは法に基づいて発する命令またはこれらに基づいてなす処分に違反したとき(三号)」には、国は地方公共団体に対し交付した負担金の返還を命じることができると規定しており、園長の解職を命じる改善命令が出されたときというのは、右施行令一八条二項二号に準ずる場合であり、園長に虐待行為があったということは、「法に基づいて発する命令」である最低基準に違反したということであって、明らかに三号に該当し、三号に該当すればいったん支弁した措置費についてさえ返還を求められるのであるから、改善命令以後、解職を命じた園長の人件費相当額を支弁しないことは当然可能である。

A厚生省通達「社会福祉施設における運営費の運用および指導について」(平成五年三月一九日・社援施三九号児童家庭局長他連名の都道府県知事他あて。以下「通達『社会福祉施設における運営費の運用および指導「について』」という。)第六項は、被告の施設に対する指導監督を強化すべきことを強調したうえ、その(三)で、監査等に係る指摘事項について改善措置が講じられない場合、「効果的かつ実施可能な方法により」制裁措置を行うとして、そのイで、運営費の不当支出・職員の末充足等の事態に対し、民間施設給与など改善費の管理費加算分もしくは人件費加算分又はその両者を減額すべきことを指示している。このように本来補充すべき職員を補充していない場合ですらも減額が認められるのであるから、被告が実際に解職の改善命令を出した職員(園長)について、その職員(園長)の人件費分の減額が認められるのは当然である。
 改善命令が出される場合というのは、改善勧告が出されたにもかかわらず法人がこれに従わない場合なのであるから、指導監督を強化し改善命令を実効あらしめるために、財務行為としてもその職員(園長)の人件費分の支弁を取りやめることは、知事としての児童福祉法・右通達上の義務である。
 仮に法人恩寵園が改善命令に従って園長を解職したとすれば、すでに解職されている園長の人件費分の措置費を支弁するのは違法であって、後に新たな園長が選任され、園長の人件費分を支弁することが適法となるときまで支弁すべきではない。

B委託契約の不履行
 地方公共団体が養護施設に要保護児童を入所させる場合には、地方公共団体が養護施設に委託(公法上の契約と解されている)して入所させることとなり、措置費は委託に伴って提供される役務の対価としての性質を有するが、右委託契約は要保護児童の養育という公益性の高い事務を委託するところから、委託者である地方公共団体は強い優越的地位に立つのであって、括置費の内容・項目・金額は委託者である地方公共団体が一方的に決定することができる。また、厚生省通達は、一定の場合に施設に対する制裁として措置費の一部を減額すべきことを認めているが、措置費の目的、性格からして通達によらなくても減額の措置は取りうるのであって、本件のように園長の体罰によって最低基準が充たされない状態になっている場合には、施設に対する制裁として園長の人件費を減額すべきである。

(二)被告の主張
(1)
 原告らの被告に対する訴えは、法人恩寵園に対する措置費の支弁の違法を言いながら、実質的には本来住民訴訟の対象とならない非財務行為である改善命令を怠ったことの違法を主張しているものであるから却下されるべきである。
(2)
 措置費は、措置(委託)児童の委託料という性格を持っており、委託した児童の数に応じて支出されるもので、園長の存否、給料などの金額とは関係なく算定されるもので、後任の園長が就任すると否とにかかわらず、委託料たる措置費から園長の人件費相当額を減額できるわけではない。
 したがって、本件においては、非財務行為(園長を解職させる改善命令を発しなかったこと)が違法だからといって財務行為(措置費を減額しなかったことまたは減額しないで支弁したこと)が違法となることはない。
(3)措置費の算定根拠
 算出の基礎となる保護単価は知事が設定するものであるが、次官通知により、事務費の月額保護単価の設定は、対象施設の所在地域、定員等によって定められている一般保護単価をそのまま設定すると定められているので、知事は一般保護単価をそのまま月額保護単価として設定している。
 したがって、恩寵園に対する措置費を算出するにあたって、恩寵園の所在地域、児童の定員、年齢構成等は基準になるが、施設長など各職員の人件費は基準にならない。
(4)
 通達「社会福祉施設における運営費の運用および指導について」は、保護単価の中の民間施設給与など改善費を減額することを規定しているものであって、施設長等の人件費を算定して減額することを認めた規定ではない、また、児童福祉法施行令六条は国から県に交付した負担金の返還を命じた規定であるから、これらの通達や規定が措置費の減額の根拠となるわけではない。

5 損害額(以下「争点5」という。)

(一)原告らの主張
(1)
 被告は、遅くとも平成八年六月末日までには、園長の解職を命じる改善命令を発すべきであったのであり、適法にこれを発していれば、平成八年九月の第3四半期分の措置費を支弁する際、園長の人件費を減額すべきであった。以後一二月の第4四半期分、平成九年四月の第1四半期分についても同様であった。また、改善命令を発すべき時期であった平成八年六月末日以前に既に支払われていた平成八年度第2四半期分の措置費のうち、平成八年七月、八月分の園長の人件費分については、平成九年二月の精算の際に返還を請求して法人恩寵園に払い戻しをさせるべきであった。
(2)
 課長通知の「本俸基準表」及び、厚生省児童家庭局監修「児童保護措置費手帳(平成八年度版)」の、「給与は、基本的には国家公務員の給与に準じて、従来から本俸や特殊業務手当、特別給与改善費、調整手当、期末勤勉手当等の諸手当が算入されている(二七頁)」、あるいは「職員の給与等の改善については、従来から国家公務員の給与改訂に準ずる給与(初手当等を含めて)の引き上げが年々行われている(五五頁)」との説明に基づき、国家公務員の給与体系を考慮して園長の人件費相当額を算出すると、@本俸・月額二七万九六〇〇円、A管理職手当・本俸の一〇パーセント、B調整手当・@Aの合計の一〇パーセント、(C・@ないしBの合計額・月額三三万八三一六円)、D勤勉期末手当としてCの五・二か月分となり、平成八年七月から平成九年六月までの一年間の給与は五九二万〇五三〇円となる。
(3)
 被告には、遅くとも平成八年六月末日までには法人恩寵園に対し、園長を解職するよう改善命令を発すべき義務があったにもかかわらず、右義務を怠ったために右園長の人件費分を支弁したものである。
 したがって、平成八年七月から平成九年六月までの措置費の内、五九二万〇五三〇円の支弁は違法である。
(二)被告の主張
 仮に、本件措置費の支弁が違法であるとしても、県の被った損害額を算定することは不可能である。
 すなわち、ある施設に対して支弁することが具体的に決定された措置費総額のうち園長の人件費として支弁される額はいくらという捉え方はできず、仮に抽象的には捉えられるとしても、施設の収入は措置費以外にもあるのであるから、措置費の内の園長の人件費相当額を具体的に算定することはできない。

第三 争点に対する判断

一 争点1について
 証拠(甲二、四、五の1ないし9、七、八、一五、二一、二二、証人○○)によれば、次の事実が認められる。
(一)
恩寵園では、園児に対して厳しい生活規律を課し、園児が口で言っても規律を守らない場合には、体罰を加えることによって規律を守らせる必要があるという方針で指導が行われていた。
(二)
 日時及び園児を特定することはできないものの、園長(及び他の数人の職員)は、長年にわたって、園児に対して前記第二の二1(一)@ないしIにおいて原告らが主張する体罰等を加えたほか、J幼児である園児を乾燥機に入れたり、明かりのついていない小さな部屋に閉じこめて外からたたく等して怖がらせる、K熱いお湯にのぼせるくらいまで無理矢理浸からせる、L罰として頭髪の一部を残してバリカンで刈る、M高校生の女子の園児を、下着だけの姿で立たせる、Nプロミスリングを足につけていた園児を見つけた際、他の園児を集め、その園児を机の上に寝かせ、包丁をふくらはぎに当て、足を切断するまねをして足を切り出血させる、O罰として園児を麻袋に入れ、吊した、P規則に違反した服を着ていた園児の服をはさみで切る等の体罰等を加えていた。
(三)
 職員も園長(及び他の数人の職員)の体罰を止めることができなかった。

 右1(一)ないし(三)の認定を覆すに足りる証拠はない。
 そして、右1(一)ないし(三)で認定した事実に前記第二の一5(三)で認定した本件報告書の記載内容を勘案すると、園長の管理主義的教育観とそれを実現する手段としての体罰を肯定する思想が恩寵園における園長(及び他の数人の職員)による体罰等の根底にあったものと認めるほかない。また、園長の右教育観及び体罰肯定の思想が、前記第二の一3(二)で説示した最低基準の「児童福祉施設における生活指導は、児童の自主性を尊重し、基本的生活習慣を確立するとともに豊かな人間性及び社会性を養い、児童の自立を支援することを目的として行わなければならない」(四四条一項)とする理念・教育観と相容れないものであることは明かである。

 なお、被告は、原告らの主張する個々の事実についてはともかく、園長に体罰等「行きすぎた指導」があったことは認める旨主張するが、右1(二)で認定した体罰の態様から、例え体罰を受けた園児に問題行動があったとしても、右体罰等が「行き過ぎた」といった程度を越える、児童養護施設の長として絶対に行ってはならない違法な行為であることは明かである(なお、社団法人全国養護施設協議会及び全国養護施設協議会の会長は、福岡で発生した体罰事件を受けて、平成七年六月一九日付けで「養護施設での体罰防止について」と題する書面を養護施設長宛に配布し、その中で、「いかなる理由があれ、体罰は、絶対に否定されるものであり、行ってはならないことです。『しつけ』とか『愛のムチ』という理由であっても許されるものではありません。体罰は施設の問題ではなく、養護施設全体の存在価値を問われることになります。決して行なわないことを鉄則とします」と述べている。また、平成一〇年二月一八日に、最低基準に「児童福祉施設の長は、入所中の児童に対し法第四七条第一項本文の規定により親権を行う場合であって懲戒するとき又は同条第二項の規定により懲戒に関してその児童の福祉のために必要な措置を採るときは、身体的苦痛を与え、人格を辱める等その権限を濫用してはならない」という第九条の二が追加され、右同日付けで、厚生省児童家庭局企画課長外から都道府県民生主幹部(局)長外宛に「児童福祉施設の長に対しては児童福祉法(昭和二二年法律第一六四号)第四七条により懲戒に係る権限が与えられているが、これは、児童を心身共に健やかに育成することを目的として設けられているものであるから、懲戒に係る行為の方法及び程度が、この目的を達成するために必要な範囲を超える場合には懲戒に係る権限の濫用に当たるものであること。懲戒に係る権限の濫用に当たる具体的な例としては、例えば、殴る、蹴る等直接児童の身体に侵害を与える行為のほか、合理的な範囲を超えて長時間一定の姿勢を取るよう求めること、食事を与えないこと、適切な休息時間を与えずに長時間作業を継続させること、施設を退所させる旨脅かすこと、性的な嫌がらせをすること、当該児童を長時間無視すること等の行為があげられること」、「懲戒に係る権限の濫用の禁止について、児童福祉施設職員を初めとする関係者に対し、改めて周知徹底を図られたいこと」という内容の「懲戒に係る権限の濫用禁止について」と題する通知が出されている。甲九、一○、一八)

二 争点2について
(一)
 市川児童相談所に園長の体罰等を訴える匿名電話があった平成七年八月二三日から平成八年四月五日までの経緯、本件報告書の内容、被告が県職員をして行わせた指導等の内容は前記第二の一5(一)ないし(四)及び(五)の第一段において認定したとおりである。
(二)
 しかしながら、証拠(甲二二、弁論の全趣旨)によれば、右(一)の指導・措置にもかかわらず、次のような事態が発生したことが認められる。
(1)
 園長は、平成八年二月四日、千葉県児童福祉施設協議会のマラソン大会の際に、低学年の園児が顔に痣を作っているのを見つけ、その園児を参加させないと言いだし、職員が参加させて欲しいと頼むと、その子を参加させないか、園児全員を参加させないかの選択を職員に迫った。
(2)
 平成八年四月二日、三人の園児が屋上で遊んでいたところ、園長が立てかけてあった梯子をはずさせて降りられないようにし、二時間余り放置した。
(3)
 平成八年四月一日に園児と担当保母の部屋割りの発表があったが、部屋割りの仕方を巡って職員らと園長との間で対立が生じ、職員らが園児に対し、退職する意向であることを伝えるとともに、児童相談所に相談に行くことを勧めたことから、園児らは、園長の体罰等から守ってくれていた職員が退職してしまうことに不安を感じ、前記第二の一5(五)で認定したとおり、四月三日から五日にかけて、園児一三人が恩寵園を逃げ出して県内四か所(市川、柏、銚子、千葉)の児童相談所に駆け込み、園長の体罰等を訴えた。
(一)
 右1(二)(3)の事態が発生したことを受けて、県の児童福祉課課長補佐が平成八年四月一一日に恩寵園を訪れ、園長に、
@体罰はしない、
A指導については、第一義的には職員にまかせる、
B職員との共通理解を深めるために、積極的に話し合いの場を設ける、
C子供の自主性を育てるために、自治会活動を行うということを園児及び職員に対し約束する旨の文書(前記第二の一5(七)で認定した文書・甲一九)を作成させ、
右文書を提出させた。
 また、平成八年四月二四日以降平成九年九月五日までに被告が県職員をして行わせた指導等の内容は前記第二の一5(六)のとおりである。
(二)
 しかしながら、証拠(五の1ないし9、七、二一,二二、証人○○、弁論の全趣旨)によれば、右(一)の指導等にもかかわらず、次のような事態が発生したことが認められる。
(1)
 平成八年五月一日、九名の園児が知事に対して手紙を書き、恩寵園では体罰が行われていたこと、園長が謝罪したが信用できないこと、園長を辞めさせて欲しいことを訴えた。
(2)
 平成八年四月以降同年八月頃までは、園長が直接処遇を行わなくなったこともあって園長による体罰等はなくなったが、職員による体罰等を背景としない処遇体勢を整えることができなかったため、園児たちが次第に荒れていき、無断外泊や喫煙、職員への暴力など問題行動を起こすようになった。
(3)
 職員は右事態に対応することができず、事態の収拾を図るため、園長に、園児を直接処遇するよう依頼し、園長は再び園児の直接処遇にあたることになった。
(4)
 平成八年一〇月一三日、園児が職員と話をしているうちに、「こんな所にいたくない」と言って手で壁をたたいたところ、それを見た園長が、その園児の顔を拳で殴って鼻血を出させた。
(5)
 平成九年三月に二名の職員を除く全員の職員が退職した。
(6)
 園児○○○○○は、平成九年四月以降、園長から、
@幼児の部屋で幼児の面倒を見ていた際、部屋に入ってきてお尻をけ飛ばされたり、
A恩寵園の電話を使用したことについて頭を叩かれたり、
B友人らが恩寵園に来た際、その友人らに対し帰るように言われたり、また、友人らを送ろうとした際、外へ出たら高校を辞めさせると言われたりしたことがあった。
(一)
右1(一)の指導等がなされたにもかかわらず(二)(1)ないし(3)の事態が発生していることからすると、県職員が平成七年一一月二七日から平成八年四月五日までの間に行った右1(一)の指導等によっては、本件報告書による提言、即ち、恩寵園における体罰等を肯定する姿勢の是正及び指導体制、児童指導観等の改善を実現できなかったものと評価せざるを得ない。
(二)
 また、右2(二)(2)の事実によれば、県職員による右2(一)前段の指導によって、一時的とはいえ体罰等が行われなくなったことが認められ、また、前記第二の5(九)で認定したとおり、法人恩寵園も園長が理事長を兼ねないようにするために理事長を交代させたり、園長の減給処分を行ったりする等それなりの対応をしていた事実はあるものの、右2(二)(4)及び(6)の事実によれば、園長が再び園児を直接処遇するようになった時点から再び体罰等が行われるようになったことが認められるのであって、そうしたことからすると、県職員が行った右2(一)の指導等によっても、園長の体罰等を肯定する姿勢の是正や体罰の発生を防止する為の指導体制、児童指導観等の改善を抜本的に改善することはできなかったものと評価せざるを得ない。
(三)
 被告は、恩寵園においては、体罰等はなくなった旨主張し、現に、県は平成九年一〇月一三日から、恩寵園に対する新規児童の措置を再開している(前記第二の一5(一二))が、右2(二)(6)の事実及び右措置再開の事実から、園長が園児を直接処遇するようになってから平成九年四月以降にも園長による体罰等が行われていたもの認められるのであって、その後再び体罰がなくなったとしても、県の指導によって恩寵園に体罰等を防止する体制が確立された結果であると断定することはできない(弁論の全趣旨によれば、年長の園児の何人かが教護院に送致されたり、親に引きとられたりして、年長の園児の数が少なくなったことも体罰が行われなくなった原因と推認される)。

三 争点3について。
 児童養護施設における運営に関する最低基準の内容及び知事の権限は前記第二の一3(二)で認定したとおりであり、児童養護施設内で体罰等が行われている状態が運営に関する最低基準を充足していないことは明かである。
 そして、県職員による右二1(一)の指導等がなされたにもかかわらず同(二)(1)ないし(3)の事態が発生していること、園長の体罰等の態様、右体罰等が偶発的に生じたものではなく、園長の管理主義的教育観とそれを実現する手段としての体罰肯定思想に基づくものと考えられること等を合わせ考慮すると、知事である被告としては、右指導等によって体罰等発生の根底にあると考えられる「体罰肯定の姿勢」や体罰等の発生を防止するための「指導体制、児童指導観等」の改善を図ることが困難であることは容易に予測することができたのであるから、遅くとも園児が集団で恩寵園を逃げ出したこと(右二(二)(3)の事態)を知った時点、即ち、平成八年四月五日前後の時点で、法人恩寵園に対し、体罰等の再発を抜本的に防止することを目的とする、園長の解職を含めた指導体制の改善を勧告すべき作為義務が生じたものと解するのが相当である。そして、このことは、右二1(二)(3)の事態が発生した後に行われた右二2(一)の指導等にもかかわらず同(二)(1)ないし(6)の事態が発生していることからも首肯することができる。
 また、右勧告をすべき状態は、右二3(三)で認定したとおり、平成九年四月以降も継続していたものと認められるのであるから、被告が右勧告をしなかったことは違法であったと認めざるを得ない。
 なお、原告らは、被告は法人恩寵園に対し、園長の解職を命ずべきであった旨主張するが、前記第二の一3(二)で説示したとおり、法四六条三項は、改善命令は「施設の設置者がその勧告に従わず、かつ、児童福祉に有害であると認められるとき」に命ずることができると規定しているのであって、被告にいきなり「改善命令」を発すべき義務があるとは認められない。
 被告は、法四六条三項に基づく改善勧告・改善命令を出すか否か、どのような内容の勧告または命令を出すか、あるいはその前に適当な指導をするか否かは、知事の判断に任せられており、仮に、原告らの主張する事態が事実であったとしても、当然に園長の解職を命じなければならないわけではない旨主張するところ、右主張は一般論としては首肯できるが、原告らが主張するとおり、裁量権の行使であっても、@生命身体財産に重大な拐害をもたらす危険の存在とそれが切迫していること、A行政庁において具体的危険の予見可能性があり、かつその結果回避防止が非常に容易であること、B被害者にとって自分ではそれが回避できず、行政の規制に頼らざるをえない状況にあることという要件を具備する場合には、その裁量の幅が一定の場合には収縮し、その権限の不行使が作為義務違反として違法となる場合があると解すべきであり、本件の場合は、右一及び二で認定した事実から、右@ないしBの要件はすべて充足しているものと認められるから、右2で認定したとおり、遅くとも園児が集団で恩寵園を逃げ出したことが発覚した平成八年四月五日前後の時点で、右2で認定した程度の改善勧告をすべき作為義務義務が発生し、右義務を履行しないという違法状態は、平成九年四月以降も続いていたものと解するのが相当であって、被告の右主張を採用することはできない。

四 争点4について
(一)
 証拠(甲一三、乙三の1)によれば、措置費に含まれる事務費のうちの基本となる部分については、原則として各施設ごとに一定の基準により定められる月額保護単価すなわち措置児童の一人当たりの月額保護単価にその施設の定員を乗じて得た額が施設に対し支弁されることとされていること(次官通知第4・1、表第4欄・(1)・算式(1)、右月額保護単価の設定方法については、「(別表2の職種別職員定数表等に基づき、算定した額)」とされており(次官通知第3・2・(1))、次官通知の細則である課長通知においては、「交付基準の事務費の保護単価に含まれる管理費及び職員の本俸等は、別紙のとおりである」として所長その他の職員の「本俸基準額表」が添付されていることからすれば、事務費の算出根拠の一つである月額保護単価を算定するにあたり、「職種別職員定数」や「本俸規準額」が要素とされていることは否定できない。
(二)
しかしながら、措置費の額の算定方法は前記第二の一4(二)で認定したとおりであり、措置費に職員等の人件費という要素が含まれていたとしても、措置された児童の数を基準として算定されるものであるから、仮に園長に解職されるべき事情があったとしても、当然に園長の人件費相当分の減額を行うべきとの結論を導くことはできない。
(一)
 原告らは、園長が解職された場合には、児童福祉法施行令六条、通達「社会福祉施設における運営費の運用および指導について」あるいは委託契約の不履行に基づき、措置費について園長の人件費相当分の減額を行うべき旨主張する。
(二)
 しかしながら、児童福祉法施行令六条は、施設が「事業の停止を命じられたとき(一号)」、「認可を取り消されたとき(二号)」、「法もしくは法に基づいて発する命令またはこれらに基づいてなす処分に違反したとき(三号)」には、国は地方公共団体に対し交付した負担金の返還を命ることができると規定しているものであって、右規定の準用が考えられるとしても、法人恩寵園が右各号の要件を充足しているとは認められないから(右三号の「命令」及び「処分」は現になされていない)、原告らの右主張を採用することはできない。
 また、適達「社会福祉施設における運営費の運用および指導について」は加算費を減額することを定めたもので保護単価そのものを減額することを定めてはいないのであるから、被告に園長に対して解職勧告を発すべき義務があっても(或いは、仮に解職命令を発すべき義務があったとしても)、右通達に依拠して、措置費について園長の人件費相当分の減額を行うべき義務が発生するとはいえず、原告らの右主張を採用することはできない。
更に、原告らは、委託契約の債務不履行に基づいて園長の人件費を減額すべきである旨の主張するが、措置費の性格、算定根拠、原告らが指摘する法人恩寵園の「債務不履行」は、被告の監督権の行使としての指導や改善勧告等によって解決するといった代替手段があることから、債務不履行を理由に減額はできないものと解するのが相当であって、原告らの右主張も採用することができない。

 以上によれば、被告が、法人恩寵園に対し、恩寵園における体罰等の再発を抜本的に防止することを目的とする園長の解職を含めた指導体制の改善を勧告しなかったとことが違法だからといって、措置費の内の園長の人件費に相当する部分を減額しないで措置費を支弁したことが違法な公金の支出にあたるとは認められない。
 よって、原告らの請求は理由がないのでこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。


千葉地方裁判所民事第五部
裁判長裁判官 川島貴志郎
裁判官 菅原 祟
裁判官 平井健一郎