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恩寵園損害賠償請求裁判
上  申  書( 補 充 )

2000年4月6日
カウンタ
from 2001/8/4


上 申 書 ( 補 充 )


                    原告 ○ ○ ○ ○ 外10名
                    被告 千 葉 県    外2名


 右当事者間の貴庁平成12年(ワ)第544号損害賠償請求事件に関し、原告らは次のとおり平成12年3月29日付上申書を補充します。

平成12年4月6日           

 原告ら代理人

千葉地方裁判所 民事第五部 御中

 本件原告中未成年者であって親権者による訴訟委任状のない4名(○○○○は本年4月9日をもって18才となり、外の3名は現在18才である。)について、本人による訴訟委任状を適法なものと解すべきこと、すでに3月29日付上申書で上申したとおりであるが、さらに次のとおりその理由を補充する。

一、 本件原告らの訴訟委任状を適法なものと解すべき理由
  1. 原告らの親権者がまったく実態の伴わない戸籍上のみの親権者であること。

     本件原告らはいずれも幼いころに親権者が養育を放棄し恩寵園に措置された者であり(○○○○は小学校5年生から、○○○○は2,3才から、○○○○は3,4才から、○○○○は2才から)、その退園の仕方も、本件訴訟の対象となっている被告大浜浩の体罰・虐待等の不法行為から逃れるために、あるいは大浜浩に追い出されるようにして退園したものであって、決して親権者が自ら積極的に原告らを引き取った結果退園したものではない。したがって、原告ら4名はいずれも初めから親元には帰らず住み込みで働き始めたか、あるいは一旦親元に帰ったような形をとりながらもすぐに親元を離れたり親から再度見放されたりして、親の監護養育のないままに生活している者たちである。言い換えれば、原告らの親権者は、同人らが2、3才ないし小学生という幼い頃から17,8才になる現在に至るまで、親としての責務をまったく果たさないできた者たちなのである。
     このような親権者は、原告らにとって、他人以上に遠い存在であり、むしろ血のつながりがあるにもかかわらず何らの養育義務を尽くさなかった分だけ逆に複雑な思いを抱いている相手であり、意思の疎通すらし難い相手にほかならない。したがって、原告らが本件訴訟を提起したい意志を率直に説明すること自体困難であるとともに、親権者らの方でも原告らの意思を理解し法定代理権を適切に行使する条件に欠けているのである。
     さらに親権者らにとって、被告大浜浩や被告社会福祉法人恩寵園は長年にわたり原告らを『育ててくれた相手』であり、千葉県はその『経費を出してくれた』機関であって、自らが養育してこなかった負い目も手伝って、真に未成年者保護の観点から法廷代理権を行使することが期待出来ないのである。

  2.  被告大浜浩は施設長として、児童福祉法第47条に基づき、原告らの在園期間中一貫して原告らの親権代行者だった者である。したがって、原告らはその在園期間中、施設長たる被告大浜浩の体罰・虐待について損害賠償訴訟を提起したくとも提起することができなかった、つまり、大浜浩を訴えるために大浜浩から委任状をもらうことなどが論外であることはもちろん、面会にも来ない実親の親権者から委任状をもらうこともできず、かといって後述のように特別代理人は後見人の選任を受けることも出来なかったのである。
     このような原告らが、退園をして、各自17才18才と十分な意思能力を持つに至り、ようやく現在自らの意思により本件訴訟を提起することができたのである。ここでさらに、実態のない親権者らの委任状を要求するとすれば、そもそも養護施設に措置されている子どもは、ほとんどの場合、自らが満20才に達しない限り、施設長を訴えることなど不可能と言うに等しく、そうなれば17才以前に退園した子どもについては、常に被告側から時効の抗弁を出される危険にさらされることになるのである。

  3. 民法上の規定、民事訴訟法の規定から見ても本件において原告ら本人の訴訟能力を認めるべきこと
     民法第4条は、未成年者の行為能力の制限につき「単に権利を得又は義務を免るべき行為は此限りに在らず」とし、民事訴訟法第31条は、未成年者の訴訟能力の制限について「ただし、未成年者が独立して法律行為をすることができる場合は、この限りでない」としている。
     また人事訴訟手続法第3条、第26条、第32条は、人事訴訟権について未成年者の訴訟能力を認めており、したがって未成年者も単独で訴訟代理人を選任できる(大判大4・8・24、民録21・1399)。
     労働基準法第59条は、法定代理人がその権限を濫用して賃金を領得することをおそれ、未成年労働者が「独立して賃金を請求することができ」と定めているが、さらに名古屋地決昭35・10・10(労民集11・5・1113)は、賃金請求訴訟も「未成年者が独立して法律行為を為すことを得る場合」(旧民訴49条但書、現民訴第31条但書)として独立して提起できると認めている(他に未成年労働者本人の訴訟能力を認めた判例として、神戸地判昭34・3・28労民集10−2−168、名古屋高判昭38・6・19労民集14−5−1110)。
     さらに民法第797条は満15歳以上の未成年に単独で養子縁組の承諾をする能力を認め、民法第780条は未成年者が単独で認知する能力を認め、民法第961条は満15歳以上のみ成年者に単独で遺言する能力を認めている。
     以上のような規定から見て、間もなく(本年4月9日をもって)全員が満18才となり、形式上の親権者からの委任状を得られず、単に権利を得るだけの訴訟である損害賠償請求訴訟を提起する原告らについては、独立した訴訟能力を認めるべきである。

  4. 市民的及び政治的権利に関する国際人権規約第2条第3項(B)第14条
     右条約は、第14条ですべての者に民事上の権利について裁判を受ける権利を保障し、第2条3項(b)で「救済措置を求める者の権利が権限のある司法上」等の「権限ある機関によって決定されることを確保すること」は締約国の責務であると規定している。

  5. 子どもの権利条約
     本件訴訟手続により原告らに保障されるべき実体上の権利・人権は、子どもの権利条約第19条が保障する親または子どもの養育をする者から身体的精神的暴力・虐待を受けない権利である。そして、子どもの権利条約は、18才未満の子どもに意見表明権を認め(第12条)、子どもが単に人権の享有者であるばかりではなく人権の行使者である事を認めている。また第37条(d)は、自由を奪われたすべての子どもに法的および他の適当な援助にすみやかにアクセスする権利、その自由の剥奪の合法性を裁判所または他の権限ある独立のかつ公平な機関において争い、かつ当該訴えに対する迅速な決定を求める権利を保障し、第39条は締約国に虐待の犠牲となった子どもが身体的および心理的回復ならびに社会復帰することを促進するためにあらゆる適当な措置をとる義務があることをうたっている。
     原告ら恩寵園の子どもたちは、被告千葉県の措置により恩寵園という劣悪な施設に収容され、被告社会福祉法人恩寵園の暴力支配によってその自由を奪われてきた。にもかかわらず在園中、原告らには右条約の保障する権利は何ら保障されず、トラウマを抱えたまま社会に放り出されたのであって、本件訴訟はまさに原告らにとり、このトラウマからの回復をめざす重要なプロセスなのである。ところが万が一にも、卒園後の今また形式上の親権者の委任状の欠缺によってこの訴訟遂行も認められないとなれば、回復の道も閉ざされたまま二重の権利侵害状態にさらされることになるのである。

二、 仮に本件原告4名に法定代理人による委任状を必要と判断した場合の不都合

 本件のごとく法律上の親権者が一応存在しているが、その親権者が親権者としての責務を長年にわたり怠っているために、親権者の代理による訴訟提起ができない場合に、現行法上の救済策があるか。右に関連する現行法の各規定による救済が可能か否かを検討する。

  1. 民法第838条に基づく後見人選任
     未成年者に後見人が選任できるのは、民法第838条第1号により「親権を行う者がいないとき」または「親権を行う者が管理権を有しないとき」である。
     「親権を行う者がいないとき」とは、法律上親権を行う者がいない場合(死亡・失踪宣告・親権喪失宣告・親権辞任・禁治産者など)および事実上行いえない場合(長期不在・生死不明・行方不明・重病・新進病による長期入院心身喪失など)であり(審判注釈民法(25)271頁)、「親権を行う者が管理権を有しないとき」とは、親権者が裁判所により管理権喪失の宣告を受けたとき(民法第835条)と親権者が管理権を辞任したとき(民法第837条)である(審判注釈民法(25)280頁)。
     本件原告らの親権者は、法律上は存在し、事実上も各原告の実家等に存在しているが、親権の行使を長年にわたり怠っているのであって、このような状況は右いずれの場合にも当てはまらないから、民法第838条に基いて後見人を選任することは不可能である。
     さらに言えば、仮に原告らの親権者について、わざわざ本件訴訟提起のために親権喪失宣告の申立てをしたり、管理権喪失の宣告申立てをしたとしても、これら事件の過去の家事審判の判決の実情(よほど積極的な子どもへの虐待や親権濫用がない限り、消極的養育の放棄、いわゆるネグレクトの事例については、子どもが乳児や幼児でない限り、宣告がおりることはあり得ない。

  2. 民法第826条に基づく特別代理人の選任
     民法第826条に基づき特別代理人が選任できるのは、「親権を行う父又は母とその子と利益が相反する行為」と「親権を行う者が数人の子に対して親権を行う場合において、その一人と他の子との利益が相反する行為」であるから、本件原告らの状況がこれにあてはまらないことは明白である。

  3. 民事訴訟法第35条に基づく特別代理人の選任
     民事訴訟法第35条は、「法定代理人がない場合又は法廷代理人が代理権を行うことができない場合」に未成年者に対して「訴訟行為をしようとする者が「遅滞のため損害を受けるおそれがあることを疎明して受訴裁判所の裁判長に特別代理人の選任を申し立てること」を認めているが、通説によれば、当該規定を未成年者が原告となって訴えを提起する場合に類推適用することはできず、民法の規定に従って法定代理人の選任(この場合後見人)を求めて訴えを提起すべきであると解している(〔第二判〕注解民事訴訟法(二)90頁)。
     仮に、通説に立たず、有力説に従って類推適用を認めるとしても、結局その要件は「法定代理人がない場合又は法定代理人が代理権を行うことができない場合」であり、1に前述した後見人選任(民法第838条)の要件である「親権を行う者がいないとき」同様、法律上親権を行う者がいない場合(死亡・失踪宣告・親権喪失宣告・親権辞任・禁治産者など)および事実上行いえない場合(長期不在・生死不明・行方不明・重病・精神病による長期入院心身喪失など)ということになる、本件原告らの状況には当てはまらない。

  4. まとめ
     以上の検討の結果からすれば、本件原告らの場合、関連する現行法のいずれの規定によっても救済は不可能であり、原告ら本人の委任状を適法なものとして扱わない限り、原告らの裁判を受ける権利の重大な侵害状況が生まれることがわかる。

三、 少なくとも原告らに一時訴訟行為(民意訴訟法第34条)をさせるべきこと

  1. 民事訴訟法第34条第1項は「訴訟能力、法定代理権又は訴訟行為をするのに必要な授権を欠くときは、裁判所は期間を定めて、その補正を命じなければならない。この場合において、遅滞のため損害を生じるおそれがあるときは、裁判所は、一時訴訟行為をさせることができる。」と定め、同条第2項は「訴訟能力、法定代理権又は訴訟行為をするのに必要な授権を欠く者がした訴訟行為は、これらを有するに至った当事者又は法定代理人の追認により、行為のときにさかのぼってその効力を生ずる。」と定めている。

  2. 裁判所が補正を命じる場合、この補正は訴状記載事項の補正ではないから、期間内に補正がなくても訴状を却下することはできず、また訴訟要件の欠缺の補正ではあるが補正できない欠缺ではないから、口頭弁論を開かずに訴えを不適法却下することもできない(第137条、第140条)。

  3. ただし、本件の場合、仮に裁判所が補正命令を出した場合でも、通常指定されるような期間内に補正することは困難である。なぜなら、前記のとおり後見人や特別代理人選任の要件はなく、あくまでも養育を放棄しているような親権者に訴訟委任を説得するほかないからである。

  4. 他方、原告ら4名は、各々恩寵園を退園してからすでに2ないし3年近くを経過しており(○○○○は平成9年2月、○○○○は平成9年3月、○○○○は平成10年3月、○○○○は平成10年4月の退園)、被告らから不法行為による損害賠償請求権の時効の抗弁が出されないとも限らない状況にある。また、報道によれば、被告大浜浩は、近く園児らへの傷害罪で書類送検される見通しとのことであり、現に被告大浜浩の次男大浜晶は、園児への強制わいせつ罪で逮捕・起訴されている。したがって、「遅延の為損害を生ずるおそれがあるとき」に当たることが明白であるから、裁判所は一時訴訟行為をさせるべきである。

                              以上